公立の不登校特例校、岐阜市立草潤中学校を視察!

公立の不登校特例校、岐阜市立草潤(そうじゅん)中学校を視察してきました。不登校特例校とは、不登校の児童生徒の実態に配慮した特別な教育課程を編成する学校で、規制緩和に伴う構造改革特区を活用して、文部科学相が指定しています。2005年の学校教育法施行規則改正で制度化され、現在、公立学校8校、私立学校9校の計17校があります。

不登校特例校の特徴は、一般校の年間授業時間1015時間に対して、770時間に減らすことができ、生徒ひとりひとりに個別相談を行い、学習教科や授業時間数を決めることができます。

草潤中学校は、閉校した旧徹明小学校の校舎を限られた予算で改修をして2021年4月に不登校特例校として開校しました。生徒数は、市外から転居した4人を含む1年生13人、2年生12人、3年生15人の計40人。開校前の学校説明会に参加した児童生徒は232名と予定定員40名に対して5倍以上の希望者があったため、これらのニーズに応えるために、在籍校に籍を置いたまま週1日同校に登校して50分ほど個別の学習支援を受ける「通級不登校支援」コースと、在籍校に籍を置いたまま週2回ほど各20分の「オンライン支援」を受けるコースを年度途中から設けて、各々22名の生徒と、24名の生徒に対応しています。

草潤中学校に在籍する40名の生徒には、通信機能付きのタブレット端末を貸し出ししていて、①タブレットとオンラインを活用して、家庭学習を基本とするパターン、②家庭学習と週に数日の登校を組み合わせるパターン、③毎日登校するパターン、の3つから自分に合ったパターンを選択し、登校を前提とせずに、生徒一人ひとりが自分に合った学び方を選択できるようになっています。もちろん学期の途中でも組み合わせを変更することが可能です。他の学年の授業を受けることもできます。登校する際の服装も自由で、このサイン表示板には、ヒールを履いて投稿してもいいんだよ!といった学校の思いが込められています。

草潤中学校のコンセプトは「学校らしくない学校」。通常の中学校は、毎日、決められた時間に登校し、登校したら、決められた教室・座席で学習を行いますが、草潤中学校では、ありのままの生徒ひとりひとりを受け入れる新たな形をつくろうとしています。全ての授業がオンラインで生配信されているので、学校に登校していても、自分の教室で授業を受けても良いし、校舎内のどこでも好きな場所でオンライン配信授業を受けて良いことになっています。生徒が登校すると先ずは校舎入口に設置されたタブレット端末に生徒番号を入力し、登校したことを記録します。

あとは校舎の平面地図を記した「イマここボード」に自分の名前のマグネットシートを自分の居場所に記しておけば、校内どこに居ても生徒の自由です。

給食はなく、お弁当持参ですが、食べる場所も自由で、校長室(マネジメントオフィス)も昼食場所として生徒達に使われています。

草潤中学校の教職員は26名おり、志願者を含め、教職員全員が同校の方針に納得のうえで着任しています。また、スクールカウンセラーの他「心の相談医」といった小児科医も生徒の面談に当たっています。生徒の担任は、面談を重ねて生徒自らが担任を選ぶ仕組みとなっています。また先生との相性が合わなかった場合には、途中で担任を変えることも可能です。草潤中学校は、特別支援学級ではなく、通常学級ですので、常時個別支援はできませんが、できるだけ生徒に寄り添い負担にならないよう配慮しています。

40名の生徒の学習パターンは、当初希望は、家庭学習中心2.5%、週数日登校52.5%、毎日登校45.0%でしたが、開校後1ヶ月には、家庭学習中心10.0%、週数日登校22.5%、毎日登校67.5%となり、毎日登校を希望する生徒が増えました。また欠席率(家庭でのオンライン除く)を見ても7割以上が登校しており、草潤中学校の取り組みの成果が出ています。

定期テストを受けるかどうかは選択でき、受けなくても評定を受けられ、数値評定だけでなく、文章による記述評定も行い、教科ごとに評定方法から選択することができます。生徒ひとりひとりに寄り添って高校受験にも対応しています。

開校時に拘ったのがトイレ。1000万円掛けて改修しました。当初、教育委員会の計画ではトイレの改修はありませんでしたが、生徒は、昔のままの古い汚いトイレでは来ないとの校長の思いで予算を組み替えてトイレを改修しました。予算が限られていたので改修できたのは2階のトイレのみ。1階と3階のトイレは、既存の未改修のままなので、生徒は1階と3階のトイレは利用せず、2階のトイレを使うそうです。

■誰ひとり取り残さない教育

世界を見回すと、貧困や差別が複雑に絡み合っていることが原因となり、教育などの機会を奪われ、取り残されている子どもたちがいます。世界では、2億6200万人の小中学生が学校に通えていません。その一方で、日本では義務教育はあるものの、様々な理由によって、その機会を失っている児童・生徒が居ることも事実です。

今回の視察は、不登校の子供達を主にしていますが、病気や怪我、障害といった事情を持つ子ども達、そして普段学校に通っている子供達を含めて、GIGAスクール構想は、学習環境を整える上で重要な役割を果たすものと考えています。今回の視察した草潤中学校は、全てオンラインで授業を受けることが出来るといったことを先進的に取り組んでいる学校です。この取り組みは、不登校特例校の制度の中で運用されていますが、一般校についても今後、導入すべきことであると考えています。これは、オンライン授業に限ったことではなく、草潤中学校が取り組んでいる「ありのままの生徒ひとりひとりを受け入れる新たな形をつくろう」といった理念自体を参考にすべきです。

学びの環境は、とても重要です。子ども達が通いたいと思える学校にしていくために、もっと柔軟に子ども達に寄り添った教育をしていくことが必要です。一方で、学びの空間も、とても大切です。草潤中学校のトイレをはじめ、テントやハンモックのある図書室、運動器具やソファがあって昼寝もできるアクティブルーム、インターネットカフェのような個別学習ができる「Eラーニングルーム」など、居心地の良いワクワクする学校空間づくりが必要です。教育委員会には学校設計基準があり、どこも一律同じような学校を建設しています。横浜市には、老朽化して建替えが必要な小・中学校が384 校あります。私は議会でも事あるごとに学校設計基準の見直しを求めています。

そもそも文部科学省の指導要綱といった、教育委員会の裁量では、できない縛りもたくさんあるもの事実です。学びの空間って学校の教室に拘る必要は無いかも知れません。将来は、そもそも学校の校舎って必要なの?といった議論も出てくるかも知れません。

現在、横浜には公立の不登校特例校はありません。市内には、私立の星槎中学校があり、県内では、大和市が2022年に分教室を開校する予定です。その他、近郊には、八王子市立高尾山学園小学部・中学部、東京シューレ葛飾中学校などがあります。

それでは、横浜市が公立の不登校特例校を設置すべきか?私は、ひとりでも多くの子どもの学びの機会を整えるためには、現在の国の特例制度を活用すべきと思います。しかしながら、本来は不登校特例校に不登校児童・生徒を集めて、環境を整えるのではなく、今の制度では難しいですが、既存の一般校全てに、不登校特例校の特例制度を導入すべきと思っています。そしてその先には、不登校か否かにかかわらず、生徒が学校に合わせて教育を受けるのではなく、学校が生徒ひとりひとりに合わせて教育するといった、全ての児童・生徒に寄り添った、ありのままの生徒ひとりひとりを受け入れる新たな学校制度に変えていくべきではないでしょうか?

草潤中学校の井上校長は、「本校の生徒が卒業した後もフォローしていきたい。そして卒業生の成人式を草潤中学校でやってあげたい。」と思いを語ってくれました。中学の3年間だけではないといった本来の教育の在り方について考えさせられます。この中学に在籍する生徒には、そもそも小学校の時から不登校で、中学の学習レベルに達していない子どもも居ます。そうした中学の期間だけでは時間が足りない子どもも居ます。だからこそ、個々の事情に合わせた一貫した教育の在り方を公的にもっと考えていく必要があるのではないでしょうか?

■全国の状況

文部科学省「令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」では、2020年度、小中学校における長期欠席者の数は28万7747人、そのうち不登校の児童生徒数は19万6127人。

不登校とは、文部科学省では「何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席したもののうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」と定義しています。
不登校の児童生徒数は、小学校で1.0%、中学校で4.1%となり、年々増加しています。
不登校の児童生徒のうち90日以上欠席した児童生徒数は54.9%となっています。
学校に1日も登校していない児童生徒数も、小学校で約2000人、中学校では約6000人います。
不登校の要因については、「本人に係る状況」が多く、小学校では60.3%、中学校で58.1%となって、その中の要因を見ると「無気力・不安」が多く、小学校で46.3%、中学校で47.1%となっています。

■横浜の状況

2020年度「神奈川県児童・生徒の問題行動等調査」では、横浜市の不登校児童生徒数は小学校が90 人(4.3%)増加、中学校が255 人(6.7%)減少、小中学校全体では前年から165人(2.8%)減って5687人います。長期欠席者の数は7835 人 で前年度より1049 人(15.5%)増えていますが、このうち885人は、新型コロナウイルス感染症回避を主な理由とした長期欠席者です。
横浜市では現在、再登校や、社会的自立を目的として、家庭との連携をはじめ、個々の状況に応じた支援(特別支援教室、教育支援センター、医療・福祉・民間フリースクール、ICT を活用した学習等)等、人との関わりの機会や学びの場があります。

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